相続放棄の期限について
相続人は、相続が開始する時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。例えば、被相続人に100万円の債権があれば、相続人はその債権を相続により承継することになります。また、被相続人に不動産があれば、相続人は当該不動産を相続により承継することになります。さらに、被相続人に100万円の債務があれば、相続人はその債務を相続により承継することになります。
それでは、もし、あなたが相続人となった際、被相続人の相続財産のほとんどが債務であった場合、どうしますか。「親が負った債務は、子がきちんと返済しないといけない」と考え、相続することも考えられますが、親の債務について相続により承継したくないと思うのが人の常?とも考えられます。
そこで、民法では、相続をそのまま承認(単純承認)(民法920条)する方法以外にも、限定承認(民法922条)の方法や相続放棄の方法(民法938条)があります。限定承認は相続によって得た財産の限度で被相続人の債務等を弁済するものです。被相続人の債務全てを承継したくないのであれば、相続放棄によることになります。
それでは、相続放棄の方法について民法の規定はどうなっているのでしょうか。民法では、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨を申述する必要があります(民法915条1項、938条)。3カ月という期間について、一般に「熟慮期間」と呼ばれています。「熟慮期間」は原則として3カ月ですが、利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長することも可能です(民法915条1項但書)。3カ月という期間は、長いようであっという間に到来する感じがしますね。その間に、相続財産がいくらあるのかを調査する必要があります。
よく問題になるのが、3カ月という「熟慮期間」のスタート時点である、「自己のために相続の開始があったことを知った時」(民法915条1項)という民法の規定です。この問題に関して、例えば、相続人が複数いる場合、相続人ごとに進行することになります(最判昭和51年7月1日参照)。また、相続人が被相続人の相続財産が全く存在しないと信じ、そのように信ずるにつき相当な理由がある場合、「熟慮期間」の起算点は、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時点又は通常これを認識することが出来る時点からとした判例があります(最判昭和59年4月27日参照)。
相続放棄は、「熟慮期間」内に手続をする必要があります。また、その期間も原則3カ月という短い期間なので、相続財産がいくらあるのかの調査前に期限が到来する可能性もあります。とにかく、迅速に調査をして相続を承認するのか、放棄するのか決める必要があります。相続放棄に関し困った点があれば、弁護士や司法書士等の専門家に相談されてみてはどうでしょうか。