相続放棄のメリット・デメリット

相続人は、相続財産についてこれをそのまま承認(単純承認:民法920条)するか、限定承認(民法922条)をするか、相続放棄(民法938条)をするかのいずれかの方法を選択しなければなりません。
それでは、相続放棄を選択する際、相続放棄のメリット、デメリットについて考えてみましょう。
 相続放棄のメリットとしては、被相続人の債務を相続により承継しないで済むことです。例えば、被相続人の相続財産が1000万円の債務しかない場合や、被相続人の相続財産のうち債権や不動産などの積極財産が2000万円で債務が3000万円である場合など、相続により被相続人の債務について相続人自身の財産から支払うことになる場合に、相続放棄をすることで自己の財産から被相続人の債務の支払いをしなくて済みます。単純承認の場合、被相続人の債務も全て承継するので、債務について、相続人自身の財産から支払う必要があります。
 このように、相続放棄は、被相続人の債務について相続人自身の財産から支払う必要がありません。一方で、相続放棄のデメリットの1つは、期間制限があることです。相続人は、自分のために相続の開始があったことを知った時点から3カ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄をする旨を申請しなければならず(民法915条1項、938条)、3カ月以内に何ら家庭裁判所に対して手続きをしなければ当然に相続を承認したものとみなされてしまいます。
 また、相続放棄のデメリットの2つ目として、いったん相続放棄の申述をした場合、撤回することが原則として出来ません(民法919条1項)。例えば、被相続人の相続財産は、債務のみと考え相続放棄をした後で、被相続人に多額の積極財産があったことが判明した場合でも、相続放棄を撤回することは出来ないということになります。ただし、民法総則の規定及び親族の規定により相続放棄の取消し(撤回)をすることは出来ます(民法919条2項)。例えば、相続放棄したのが相手方(他の相続人)の詐欺による場合、相続放棄を取消す(撤回する)ことが出来ます。
 このように、相続放棄には期間制限があり、また、撤回することが出来ないことことに注意する必要があります。なお、どうしても、期間制限により相続放棄できなかった場合、遺産分割協議により自己の相続分を「ゼロ」にしてもらうことで事実上相続放棄をしたことと同じ効力を得ることができますが、被相続人の債務について自分以外の特定の相続人に全て承継させようとする場合には、被相続人の債権者との関係で問題が生じる場合もあるので注意が必要です。

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